2025年ルーヴル美術館強盗事件|盗まれたナポレオン時代の王室宝飾品とその行方

2025年10月19日、日曜日の朝。
ルーヴル美術館で発生した強盗事件は、犯人が逃走する様子を捉えた映像とともに、当日のテレビニュースで繰り返し報じられました。

その後も捜査は続き、11月から12月にかけて容疑者が相次いで逮捕され、4人目の関係者が拘束されるなど、事件は大きな進展を見せています。

本記事では、2025年ルーヴル美術館強盗事件の概要をはじめ、盗まれた宝飾品の内容とそれに関わる歴史的人物、犯行現場となった展示室「アポロンのギャラリー(Galerie d’Apollon)」、そして約50年前に同じ場所で起きていた類似事件について、時系列と背景を整理しながら解説します。

事件の概要 — 2025年10月19日、ルーヴルで発生した大胆な盗難

2025年10月19日の午前、開館後まもないルーヴル美術館の代表的な展示室「アポロンのギャラリー」に、外部から何者かが侵入し、展示ケース内の宝飾品数点が盗み出されました。

報道によれば、犯人グループは引越し用トラックに搭載されたはしご付きリフトを使用し、外壁から直接展示室へ侵入しました。展示ケースのガラスは切断され、内部に収蔵されていた宝飾品が短時間のうちに持ち去られました。警備員が現場に到着した時には、すでに犯人は逃走しており、犯行に要した時間は7分以内だったとされています。

当初の発表では「9点の宝飾品が標的とされた」とされ、そのうち8点が盗難1点(王冠)は逃走中に遺棄され、損傷した状態で美術館周辺で回収されたと報じられました。

事件後、フランス当局は大規模な捜査に着手し、11月から12月にかけて複数の容疑者が相次いで拘束され、事件は現在も捜査が続いています。

盗まれた宝飾品とは?— 単なる「ジュエリー」ではない、歴史を背負った文化遺産

今回盗まれたのは、19世紀フランスの王政・帝政期に制作された王冠宝飾品コレクションの一部でした。
これらは単なる高級装身具ではなく、フランスの政治史と深く結びついた文化遺産です。

報道を総合すると、盗難の対象となったのは以下の宝飾品とされています。

  • ウジェニー皇后の王冠とティアラ:金製の王冠は逃走中に落下し、損傷した状態で回収されました。ティアラは盗難品に含まれています。
  • マリー=ルイーズ皇后エメラルド&ダイヤモンドのジュエリーセット:ナポレオン1世が皇后のために制作させたとされるネックレスとイヤリングのセット。
  • マリー=アメリー王妃およびオルタンス・ド・ボアルネに関連づけられたサファイア&ダイヤモンドのジュエリーセット:ティアラ、ネックレス、イヤリングを含む儀礼用宝飾品。
  • その他のブローチ類:19世紀の王侯貴族の公式行事で用いられた装身具。

盗まれた宝飾品の歴史的背景

盗難に遭った宝飾品はいずれも、「フランス王冠宝飾(フレンチ・クラウン・ジュエル)」と総称されるコレクションに属しています。
これらは、王政および帝政期のフランスにおいて、権力と国家の威信を視覚的に示すために制作されたものでした。

19世紀、ナポレオン1世やナポレオン3世は、婚姻、戴冠式、外交儀礼といった国家的行事の場で用いるため、サファイアやエメラルドをふんだんに用いた宝飾品を皇后たちのために制作させました。
しかし、革命や王政の崩壊を経て多くの王室宝飾は売却・散逸し、その多くが国外へ流出しています。

今回盗まれた宝飾品群は、そうした歴史の中で国有財産として保存され、ルーヴル美術館に収蔵されてきた数少ない貴重な遺品でした。アポロンの間に展示されていたのは、単なる美術品としてではなく、フランスの王権と政治史を物語る中核的存在だったのです。

このため専門家の間では、今回の事件は金銭的被害にとどまらない「国家的損失」と受け止められています。宝石の価値以上に、「誰が、どの時代背景のもとで身に着けていたのか」という歴史的文脈そのものが失われる危険性が指摘されています。

参考資料

https://www.cnn.com/2025/10/20/style/louvre-heist-which-jewels-stolen-intl-hnk

https://www.reuters.com/world/europe/what-jewels-did-louvre-thieves-target-2025-10-19/

https://ja.wikipedia.org/wiki/2025%E5%B9%B4%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%83%AB%E7%BE%8E%E8%A1%93%E9%A4%A8%E5%BC%B7%E7%9B%97%E4%BA%8B%E4%BB%B6

https://www.lemonde.fr/en/france/article/2025/10/20/spectacular-louvre-heist-highlights-security-flaws-at-world-s-largest-museum_6746591_7.html

https://www.interpol.int/en/News-and-Events/News/2025/Louvre-Museum-theft-Stolen-jewels-added-to-INTERPOL-s-Stolen-Works-of-Art-database

https://www.interpol.int/fr/Actualites-et-evenements/Actualites/2025/Louvre-Museum-theft-Stolen-jewels-added-to-INTERPOL-s-Stolen-Works-of-Art-database

https://www.designstoriesinc.com/europe/art-information-26/

宝飾品に関わる皇帝・王族ミニ解説

1. ウジェニー・ド・モンティジョ(Eugénie de Montijo, 1826–1920)
ナポレオン3世の皇后。第二帝政期の宮廷文化を象徴する存在であり、華麗なドレスと宝飾品で知られました。今回盗難対象となったティアラは、実際に彼女が公式行事で着用していたものとされています。

ウジェニー・ド・モンティジョの肖像画
ウジェニー・ド・モンティジョの肖像画 (Édouard-Louis Dubufe作)

2. マリー=ルイーズ(Marie-Louise d’Autriche, 1791–1847)
オーストリア・ハプスブルク家出身で、ナポレオン1世の皇后。政略結婚としてフランスに嫁ぎ、後にパルマ公国を統治しました。息子ナポレオン2世(ローマ王)は若くして夭折しています。

皇后マリー=ルイーズの肖像画
皇后マリー=ルイーズの肖像画 (François Gérard作)

3. マリー=アメリー・ド・ブルボン=シシール(Marie-Amélie de Bourbon-Siciles, 1782–1866)
七月王政の国王ルイ・フィリップ1世の王妃。敬虔で慈善活動に熱心な人物として知られ、1848年の二月革命後は亡命生活を送りました。

マリー=アメリー・ド・ブルボン=シシールの肖像画
マリー=アメリー・ド・ブルボン=シシールの肖像画 (Louis Hersent作)

4. オルタンス・ド・ボアルネ(Hortense de Beauharnais, 1783–1837)
ナポレオン1世の義娘(皇后ジョセフィーヌの娘)であり、オランダ王ルイ・ボナパルト(ナポレオン1世の弟)の王妃。ナポレオン3世の母として知られます。今回の宝飾品との関係は、王冠宝飾コレクションに含まれる人物としての歴史的文脈に基づくものです。

オルタンス・ド・ボアルネの肖像画
オルタンス・ド・ボアルネの肖像画 (Anne-Louis Girodet de Roussy-Trioson作)

展示室解説|アポロンのギャラリー(Galerie d’Apollon)とは

アポロンのギャラリーは、ルーヴル美術館の中でも最も象徴的なギャラリーのひとつです。
17世紀、ルイ14世の治世下で構想が始まり、太陽神アポロンをモチーフに、王権と栄光を視覚的に表現する空間として設計されました。

装飾計画は政治的変動や建築計画の変更を経て長期にわたり、現在の形に整えられたのは19世紀に入ってからです。天井画にはシャルル・ルブランをはじめ、後世にはウジェーヌ・ドラクロワらも関わり、金色を基調とした壮麗な装飾が施されています。

のちにフランス王冠宝器の展示室となったこの空間は、王政から共和国へと移り変わるフランス国家の歴史そのものを体現する場として位置づけられています。

1976年にも起きていた「アポロンのギャラリー襲撃事件」

実は、アポロンのギャラリーが犯罪の標的となったのは、今回が初めてではありません。
1976年12月15日から16日にかけての深夜、ルーヴル美術館はすでに一度、大規模な強盗事件を経験しています。

この事件で盗まれたのは、ブルボン朝最後の国王シャルル10世が1825年の戴冠式で使用した王剣でした。この剣は、1853年にナポレオン3世が結婚式の際にも使用した、極めて貴重な宝飾工芸品です。

犯行に及んだ3人の男たちは、館内の足場を利用してアポロンの間に侵入し、警備員2名を負傷させ縛り上げたうえで王剣を奪い、そのまま逃走しました。
盗まれた王剣は、現在に至るまで発見されていません。

ルーヴル美術館の「アポロンのギャラリー完全ガイド」記事へのサムネイル画像

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