パリは8区、シャンゼリゼ大通りからそう遠くない、オスマン様式の高級建築が連なる界隈に、ジャックマール・アンドレ美術館はあります。19世紀の豪華な邸宅がそのまま美術館となったパリで最も美しいと言われている美術館です。
ルーヴル美術館やオルセー美術館などの国立美術館とは異なり、この美術館は夫婦の遺志によりフランス学士院へ寄贈された私邸とコレクションをもとに公開されています。
この記事では、ジャックマール・アンドレ美術館の歴史や見どころ、館内の様子、併設サロンの魅力まで、実際に訪れた体験を交えながら詳しくご紹介します。
ジャックマール・アンドレ美術館とは
銀行家、軍人、国会議員、実業家として成功したエドゥアール・アンドレが19世紀に建てた豪華な邸宅と、彼が妻ネリー・ジャックマールと収集した数々の美術品コレクションがそのまま美術館として公開されています。

©️museesfranceart / photo by May
エドゥアール・アンドレと邸宅建設
フランス南部ニームの裕福な家庭に育ったエドゥアールは、20代後半から絵画や家具、美術工芸品の収集に情熱を注ぐようになりました。

1869年、36歳のエドゥアールが購入したオスマン通り沿いの約5,700平方メートルの広大な敷地に、建築家アンリ・パランによる左右対称の美しい大邸宅が完成したのは6年後の1875年。時代は、オスマン男爵によるパリ大改造計画で、パリの地図が書き替えられていた時期のことです。
肖像画家ネリー・ジャックマールとの出会い
一方、ネリーは何度もサロンで受賞し、名声を得ている女流肖像画家でした。1872年、エドゥアールから肖像画の依頼を受けたのがきっかけで、1881年に二人は結婚しました。

個人コレクションから生まれた美術館
夫婦を結びつけたのは芸術への情熱でした。結婚後、ふたりはイタリアやエジプトへ赴き、さらにコレクション充実させていきました。その間、パリの邸宅では増え続けるコレクションを展示するための大規模な改築工事が施されました。
1894年、エドゥアールが60歳でこの世を去ると、未亡人となったネリーは一人でコレクション収集に精を尽くします。1902年にはインド、中国、日本まで足を運びました。
パリの邸宅文化を今に残す美術館
ネリーが亡くなった1912年、遺言書に基づき、邸宅はフランス学士院の所有となりました。そして、翌年ジャックマール=アンドレ美術館が開館しました。美術館開館についての諸条件から作品の展示場所に至るまで、夫婦の意志が尊重されています。
ジャックマール=アンドレ美術館の見どころ
館内に足を踏み入れると、まるで19世紀のパリへタイムスリップしたかのよう。豪華な大階段や華やかなサロン、光あふれる『冬の庭』と呼ばれる室内庭園が当時のまま残されており、芸術作品だけでなく邸宅そのものが見どころとなっています。
さらに、イタリア・ルネサンス絵画やフランドル絵画を中心とした質の高いコレクションも見逃せません。個人コレクターが集めたとは思えないほど充実した内容で、夫婦の芸術への情熱と審美眼の高さを感じさせます。

レセプションホール(大広間)
入口近くには、邸宅で催されていた数多くのレセプションの為に確保された、円形のスペースがあります。ここには、彫刻の胸像が壁に沿って展示され、来客をもてなす広い空間を尊重した展示方法になっているのが印象的でした。
ここにあるアンリ4世のブロンズ像は、この美術館の胸像コレクションの中で最も古い時代のものだそうです。

フランス18世紀ロココ絵画コレクション
大広間の手前には、招待客の控えの間があり、ここにはエドゥアールが収集した18世紀絵画作品が展示されています。ブーシェ、ナティエ、シャルダン、カナレットといった、ルーヴル美術館でもお馴染みの作家の作品が美しいボルドー色の壁に優雅に飾られています。

音楽の間
大広間と接するもう一つの場所が『音楽の間』です。この部屋は、天井が吹抜けになっており、下から見上げる天井画が見事です。音楽の間というだけあって、芸術の神「アポロンの勝利」が描かれています。
また、ホール奥の本棚の上に飾られたエドゥアールのブロンズ胸像はネリーの作品です。


ジャックマール=アンドレ美術館所蔵
この音楽の間では、定期的にミニコンサートが開催されていますので、ご興味のある方は公式サイト(「Programming」->「Events」)をチェックしてみてください。
🎼 2026年夏のミニオペラコンサート@ジャックマール=アンドレ美術館
7月2日〜11日 19:30-22:30 Paris Lyric Festival(パリ リリック フェスティバル)
料金: 一等席170€ / 二等席140€ / 立ち見席38€
🔍 コンサートのプログラムを詳しく見る(公式サイトへ)
ジャルダン・ディヴェール (冬の庭)
音楽の間を過ぎると、観葉植物のグリーンと天井から差し込む自然光が眩しい広いホールへと続きます。そこは、ジャルダン・ディヴェール (冬の庭)と呼ばれる屋内庭園になっています。

フランスでは、ガラス屋根や大きな採光部を備え、冬でも植物を楽しめる温室のようなスペースをJardin d’hiver(ジャルダン・ディヴェール)と呼びます。
ギリシャ・ローマ彫刻に囲まれたその空間を歩くと、ふと別世界に入り込んでしまったような不思議な感覚になりました。美術館にいたはずなのに…ここは温室?という感じです。このようなスペースのある美術館は、今まで訪れたことがありませんでしたので、とても新鮮でした。
大理石の二重階段とティエポロのフレスコ画
ジャルダン・ディヴェールにあるもう一つのみどころは、大理石の二重階段です。二重階段と言えば、フォンテーヌブロー宮殿のような、〈建物の外にあるもの〉というイメージが強かったのですが、個人邸宅の室内に、しかも柱や壁にも上質の大理石が使われている豪華な二重階段というのも目を見張るものがあります。

そして、階段を登った上階の壁一面の見事なティエポロによるフレスコ画(1745年)も圧巻です。もはや、ここは美術館となるために建てられた邸宅と言わんばかりに、このフレスコ画は自然に溶け込んでいます。
ティエポロのフレスコ画

このフレスコ画は、16世紀ポーランド王だったアンリ3世(母は、イタリア出身のカテリーヌ・ド・メディシス)が、兄シャルル9世の悲報を知りフランスに帰国する途中、立ち寄ったヴェネチアのコンタリーニ邸で盛大な歓迎を受けるシーンが描かれています。
ティエポロは、コンタリーニ邸の玄関ホールの装飾の注文を受けた際、この時の歴史的なアンリ3世訪問の光景を中心部に描きました。その上で、当時コンタリーニ邸の所有者だったピサーニ氏の結婚記念のために、ピサーニ夫妻を描いた別のフレスコ画を左側に配置し、まるで夫妻がバルコニーからアンリ3世訪問を眺めているような、二重構図のとてもユニークな作品です。

ちなみに、後述の美術館併設のサロン・ド・テ(当時は夫妻の食堂でした)に展示されている天井画もアンリ3世訪問を描いたフレスコ画で、こちらと対になっている作品です。
1893年にエドゥアールとネリーがこのフレスコ画を購入したとき、フレスコ画を外しパリまで運ばせ、そして大階段の上部と食堂の天井に設置するまでに、なんと8ヶ月の歳月がかかったとのことです。
初期イタリア・ルネッサンス美術
次の展示室は、通称「イタリア美術館」と呼ばれるイタリア・ルネッサンス初期の彫刻、絵画コレクションのコーナーです。一歩足を踏み入れると、まるでキリスト教会の中にいるかのような静謐な雰囲気に包まれます。

フィレンツェ絵画の部屋の三点の聖母子像や寄木細工の大きな聖職者席、ヴェネチア絵画の部屋など、特に初期イタリア・ルネサンス作品の充実ぶりは有名で、イタリア国外の個人コレクションとしては世界有数ともいわれています。
ネリーの寝室とエドゥアールの寝室
地上階の夫婦のプライベートの居住空間も必見です。ネリーの寝室は、上品なホワイトベージュで統一された落ち着いた空間となっています。一方、エドゥアールの寝室は、エドゥアールが亡くなった後、ネリーの好きなパステルカラーの内装に改装されました。整理箪笥の上にエドゥアールの石膏胸像(カルポー作)が展示されています。
見どころを詰めた動画を作成しました。お時間があったら、ぜひご覧ください🎵
その他の見どころ
17世紀フランドル絵画では、レンブラント、ヴァン・ダイク、フランス・ハルス、フィリップ・ド・シャンパーニュと、ルーヴル美術館でも馴染みの深い作家の作品を鑑賞できます。また、マリー・アントワネットの肖像画家だったエリザベート・ヴィジェ=ルブランによる『スカブロンスカイア伯爵夫人の肖像』も必見です。
サロン・ド・テ「Nelie (ネリー)」
ジャックマール=アンドレ美術館には3回ほど訪れていますが、必ずといっていいほど、鑑賞後はこのサロン・ド・テでお茶やお菓子をいただくのが恒例となっています。2026年春に訪れた時は、家具が新調されていて以前より高級感が増したように感じました。

(サロン・ド・テ『ネリー』内)
夏はテラス席もあり、ぜひ鑑賞後は余韻に浸りながら立ち寄っていただきたい、おすすめの場所です。

訪問前に知っておきたい実用情報
場所と行き方
パリ市内から行く場合は、最寄駅はメトロ9番線のSaint-Philippe du Roule、Miromesnil(13番線も通過)です。どちらの駅からも徒歩5分ほどです。シャンゼリゼ大通りや凱旋門からは徒歩で15分前後です。
近くには、緑豊かなモンソー公園、そして同じく豪華邸宅が美術館になった、ニシム・ド・カモンド美術館(2030年まで改装により閉館中)、パリの無料美術館の一つ、セルヌスキ美術館があります。
通りに面した入口付近で、セキュリティチェックを受けた後、建物の反対側への通路を進みます。展示室入口は、中庭を通過した建物正面になります。

あわせて読みたい🔍

入場料とチケット予約方法
入場料
常設展、特別展ともにチケット料金は共通で、現在公表されているのは2026年8月までの料金です。
ジャックマール=アンドレ美術館はルーヴルやオルセーのような国立美術館ではないため、料金制度が少し異なり、無料は7歳未満の子供のみ、またシニア料金も設定されています。
料金表 (2026年8月まで)
大人: 19€
シニア(65歳以上): 18€
学生および19才〜25才: 15,50€
7才〜18才: 10€
7才未満: 無料
おすすめのチケット予約方法
チケットの購入は当日美術館の窓口でも可能ですが、事前にチケットのオンライン予約時間を確認したところ、当日や前日でも比較的余裕があることがわかったので、当日の入場をスムーズにするため、来館日が決まった時点で事前に予約しておく方法を選びました。
わたしはTiqetsというチケット販売サイトを利用しましたが、日本語サイトで、手数料はゼロで公式サイトと同じ料金で購入ができました。
言葉の面から窓口での購入が心配な方、日本語で予約したい方には、Tiqetsでの予約をおすすめします。チケットはアプリ内で一括管理ができる点もよかったです。
Tiqetsでジャクマール=アンドレ美術館: 行列スキップチケットの予約状況を調べる
*〈手数料なし〉の公式価格と同じ額です
Klookでも〈手数料なし〉で販売されています↓✨
Klook.com日本語の無料ガイドアプリが良かった✨
今回訪問して、初めて美術館アプリ(無料)を利用してみました。日本語対応をしていて、ガイドの発音も自然で聞きやすかったです。かなり詳しく解説されているので、全ての解説を聞きながら鑑賞すると、かなりの時間を要します。私の場合、ゆっくり鑑賞したので4時間位かかりました。
また、アプリは音声ではなく、活字で読むこともできるので、イヤホンを持参していなくても利用可能です。私の場合、途中でイヤホンは使わずに音声を弱くして、電話しているように耳に当てて聞きました。


パリミュージアムパスは対象外
ジャックマール=アンドレ美術館は、パリミュージアムパスの対象外となっていて、使用できません。
見学時間の目安
常設展のみガイドアプリなしで回るなら2時間くらいみておけば大丈夫だと思います。ガイドアプリをしっかりと聞いて回る場合や、特別展も観る場合、3〜4時間以上はかかると思います。
ミュージアムショップを利用する
ミュージアムショップは、美術館建物内の展示室に行く途中にあります。つい、見学前に入りたくなりますが、ショップの利用は鑑賞後がおすすめです。ここはグッと我慢して、見学後の余韻に浸りながらグッズを選ぶのが◎です✨
特別展開催中なら特別展の関連書籍や文具などのオリジナルグッズや、常設コレクションの解説書のほか、ヨーロッパ風のインテリア雑貨も美しく陳列されています。クラシック調のお土産探しにもよさそうです。

ジャックマール=アンドレ美術館の基本情報
| 所在地 |
| 158 boulevard Haussmann, 75008 Paris |
| 開館時間 |
| 月・火・水・木 : 10:00〜18:00 金 : 10:00〜21:00 土・日 : 10:00〜19:00 ※最終入場は閉館時刻の30分前まで |
| チケット |
| 〈常設展・特別展の共通料金です(2026年8月までの料金〉 一般 : 19€ 19才〜25才、学生: 15,50€ 7才〜18才 : 10€ 7才以下 : 無料〈証明書提示〉 ※美術館入口で購入したチケットは購入当日に限り有効です |
| オーディオガイド無料アプリ(日本語可) |
| 👉アプリダウンロード Apple Storeでダウンロードする Google Playでダウンロードする |
| 公式サイト |
| https://www.musee-jacquemart-andre.com |
| 行き方 |
| メトロ9・13番線 : Saint-Augustin、Miromesnil または Saint-Philippe du Roule ※どちらの駅からも徒歩約5分 RER A線 : Charles de Gaulle-Etoile駅より徒歩約14分 |
| ミュージアムショップ開店時間(美術館開館時間と同じ) |
| 月・火・水・木 : 10:00〜18:00 金 : 10:00〜21:00 土・日 : 10:00〜19:00 💡入場券なしで入れます |
| サロン・ド・テ開店時間 |
| 月・火・水・木 : 9:30〜18:00 金 : 9:30〜22:00 土・日 : 11:00〜19:00 (ブランチメニューは11:00〜14:30) 💡入場券なしで入れます メニューを見る(英語) |



